2022*12 屋久島

山を下った後、海を見たくなった。

もう既に日は傾き、冬の冷たい風が強く吹いている。屋久島は南に位置しているとは言え、1000m超の山がたくさんある島なので、冬には雪が降ることもあるらしい。

真っ暗になる前には宿に戻ろう、そう思いながらトレッキングシューズをスニーカーに履き替え、宿を出る。

 

滞在していた宿の窓からは海が見えた。朝起きてカーテンを開けると、朝焼けに染まる空と海。前日の夜、もうすっかり暗くなってしまってから宿に到着したので、明るくなって初めて「こんなに海が近いんだ」と思った。

 

方角さえ合っていれば、適当に歩いていても5分程で海に出られるだろう。地図を見ずに歩き出した。が、海の手前には民家が立ち並んでおり、あと一歩というところで海へ出ることができない。うろうろと歩き回る。湿気を含んだ風が冷たい。

仕方なくGoogleマップを開いた。私が今歩いてきた方とは逆の方向に、海へと抜ける道が1本だけあるようだった。引き返してまた歩く。

その道の両側には、私の背丈の倍くらいの植物が生い茂っていた。風でざわざわと大きく揺れる。日が傾いていることもあり、少し、怖い。

しばらく歩くと砂利浜に出た。大きな岩もある。その岩に向かって進む。途中、川がある訳でもないのに、陸から海に向かってたくさんの水が、砂利の隙間に満ちるように流れているのを見た。


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この日の昼は初めてガイドを付けて山に入った。今回の旅程を組む中で、生態系がかなり特徴的な島に行くのに、いつものようにひとりで修行のように山を登るのはもったいないな、と思った。それにガイドをつければ運転もしてもらえるし。

結果としては、ガイド氏も同行者も良い方々で和気藹々、大正解であった。

 

コースは白谷雲水峡〜太鼓岩。道中に水を汲める場所が(本当に)たくさんあるため、持っていった飲み物は500mlのスポドリのみ。

この日は運良くヤクシカやヤクザルにも遭遇できた。クチベニタケをツンツンすると、煙のように胞子を吐き出す。適宜ガイド氏が解説を加えてくれる。

太鼓岩に着くと、辺り一面にガスがかかっている。しかしほんの数分で少しずつ、晴れていく。「ここから見える景色には、人工物がひとつも無いんです。それが魅力だと思っている。あの、川の横にひとつだけ見える黄色い木がメタセコイア。」眼前には山、山、川、山、山。

 

折り返し、下りは本降りの雨となった。

雨の中の山歩きは初めてだったが、全くしんどくはなかった。下りきったらまたひとつ、生きていく技術を身につけられるような気がして、なんだかワクワクした。

霧が立ちこめる山の姿も、苔が水分を含んでツヤツヤ光るのも、幻想的で美しい。

屋久島の山に降った雨は、一日で海へ出るんですよ。」


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私の足元を流れる水を見る。これは、昼に山で降っていた雨なのかもしれない。喉元から腹にかけて、スっと冷たいものが走る。知識と経験が、今までにない早さで繋がった。一瞬、背筋がゾクッとする。心拍のリズムが少しだけ早くなる。

岩の上にたどり着き、そこから暗い海を見下ろす。飲み込まれそう。海風で上着がバタバタ鳴る。後ろを振り返ると、黒々とした大きな山々が堂々と聳えている。本当に、ここは山の島なんだ、と思う。空にはちょうど島の上だけに重く分厚い雲が乗っている。

 

なんだか、一生手に負えなさそうな場所だな、と思った。

 

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屋久島は「ひと月に35日雨が降る」と言われる島らしいです。

出発日に天気予報を確認したら、滞在日全日快晴でやったー!と思っていたのですが、実際は毎日雨が降りました。

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(☝︎行きのプロペラ機から見た屋久島)

島自体は花崗岩メインでできているらしいです。温暖で雨は多いけれど、植物が育つには厳しい栄養状態で、通常よりもゆっくり育つため、木々の年輪を見ると幅が狭〜〜くなっている。ちなみに屋久杉と呼ばれるのは、樹齢1000年を超えた杉だけらしい。

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(☝︎赤ちゃん杉たち)

山を歩くととにかく杉がたくさん生えています。なぜかくっついて一体化していたり、枯れた杉の上に新しく若い杉が生えていたり、なんとも言えない生々しい生の気配が充満していて、その気配にあてられ少し気持ち悪くなってくるぐらい。

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この次の日は体験ダイビングで海底散歩をしました。

ダイビング自体が初めてだったので、海に入った瞬間は「ハアッ、、ホントに、、死ぬかも、、、!!」という感じでしたが、慣れてきたら若干余裕が出てきて、ウミガメかわいい〜魚かわいい〜と楽しめました。

そして陸に上がる時はなぜか全然足腰に力が入らなくてしっかり立てず、「陸初日の生き物か!?」状態でした。

でも今回でなんとなく慣れた気がするので、次はもう少し余裕を持って楽しみたい。というか、深いところにも行きたいしライセンス取ろうかな、とも少し思ってます。

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実はこの旅程の間にまたひとつ歳をとったのですが、とてもいい過ごし方ができたな〜と思っています。

構ってくれた方々、本当にありがとうございました。次は宮之浦岳縄文杉縦走できるように、体力をつけて行きます。

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どうぞ良いお年をお過ごしください。